5月19日「宇田川コーリング vol.3」ライブレポート
2014年5月28日オーディエンスの心を掴む“一撃一殺”の個性を持ったアーティストと出会うべく始動した、音楽レーベル・LD&Kによる新人発掘オーディション・ライブ「宇田川コーリング」。
第3回目も独自の世界観を持つ全5組が出場し、非常にハイレベルな争いを繰り広げた。
“日本を感じるバンド”というコンセプトを掲げるバンド、じぱんぐが先陣を切る。
今中健介(Vo)、加賀山長志(Gu)、藤村 穣(Dr)、大野孔明(Ba)が紡ぐ音楽はフォークソング。
日本人の琴線に触れるメロディが持ち味だ。
原風景が浮かび上がる歌詞、色彩を宿す歌声、躍動感を与えるバンドサウンド、そのどれもが“わびさび”を重んじる日本人にしっくりとくる。
また、彼らのいい意味で脱力感のある人柄が音色にも反映されているのだろうか、自然と観客側も彼らの音楽の前では気を許してしまう。
リアルタイムでフォークソング・ブームを経験した世代にとっては若かりし青春時代が鮮明に蘇るに違いない。また、下の世代にとってはフォークソングの持つ温もりが新鮮に入ってくる。
殺伐とした現在だからこそ、聴くだけで穏やかな気持ちになれるこういった音楽は必要だと感じた。
じぱんぐを中心に、彼らを取り囲む周りの人間が徐々に幸福感に包まれていく…そんな安らぎのライブを披露してくれた。
2組目は、POPO(Vo&Gu)、Kenji(Gu&Cho)、Masato(Ba&Cho)からなるROOZERが登場。
フロントマン全員がドラムに向き直って、気合いの一発を鳴らし、始まりの時を告げた。
熱を帯びたバンドサウンドをぐんぐん加速させ、フロアの高揚感を煽る。
ギターを前面に押し出した骨太ロックを轟かせる彼らだが、リフレインする言葉使いであり、楽器陣のエモーショナルながらも言葉を引き立たせるプレイスタイルであり、一度聴けば耳に残るキャッチーなフレーズを器用に盛り込んでいるのも特筆すべき点である。
また、POPOの甘い歌声と高音域の伸びの良さが爽快さをもたらし、観客に清々しさを与える。
どれだけソリッドな曲にしようと、そこにボーカルが乗ることで一気に間口を広げているように思う。
この相反した要素が合致したバンドは、今後の音楽シーンにおいてキーマンとなりうる存在ではないだろうか。
そして、3組目。
悠実(Vo&Key)、Y田(Gu)、Kerry(Ba)、卓哉(Dr)からなるのキリクと魔女。
深々と一礼をしてから演奏へ。
緊張感張り詰める中、悠実の独唱から始まるのだが、すでにこの時点で彼女たちが発する幻想的な空気に場内は染め上げられていた。綺麗な調べに時折狂気さを覗かせる歌声が軽やかに舞い、小悪魔的にオーディエンスを翻弄する。
さらに妖艶な雰囲気を漂わせる鍵盤の音色にベースとドラムのリズム隊を要に置いたサウンドは、繊細さと物悲しさを壮大に描き出す。
そして、時間を忘れされる、ゆったりとまどろんだひと時を提供していく。
それがいちばん反映されたのが、ラストナンバーの「道化師」。
全体的に荘厳なメロディを紡ぎながら、アウトロでは各メンバーのせめぎ合いに高揚感を覚えた。力強さと儚さを体現した華麗なフィナーレに感銘を受けた人も多いだろう。
今日が東京初ライブだという、さしすせそ松下(Vo&Gu)、パルプンテ山田(Dr)、イケダーマン池田(Gu)、アナリストまこと(Ba)からなる、さしすせそズ。
彼らの音楽は、普段なかなか注目されないものの日々耐え忍んでいる大人にこそ聴いてもらいた、応援歌! ありきたりな日々を舞台にした歌詞は純粋で、生々しくその光景が浮かぶ。
その言葉を大切にした極限まで削ぎ落とされたシャープなサウンドがまっすぐリスナー一人ひとりに突き刺さる。
だから、聴いているうちに少し胸が痛くもなってくる。
夢や希望を好きなだけ自由に描くことができたあの頃…今の自分はどうだろう?
夢と現実を天秤にかけ、適度なところで妥協点を見出していないか? うまく大きな流れに乗っているようで、器用な人間ばかりじゃない。
不器用に、常にモヤモヤ何かを腹のなかに抱えながら、それでも懸命に今を生きる大人に“頑張れ!”と言わない、彼らなりのエールが込められている気がした。
5組目。この日バンド紹介からして、いちばんの異彩を放っていた、ジュノラマ王国。
プロフィールを簡単に説明すると、ジュノラマ王国からやってきたデトミル(Vo)、ヨシコ(Gu)、ユーレノ(Key)の3人は見習い魔術師(!?)であり、世界の人々と友好関係を築くため、この地にたどり着いたらしいが…と、紹介からして怪しい(笑)。
ただ、この見習い魔術師たちは巧みな手さばきで心地よい音色を生み出すことができる。
冒頭の強烈な王国紹介すら、自然と受け入れてしまえるほど、オーディエンスを引き込んでいく魅力を持っているのだ。かわいらしさや切なさを楽曲ことに演じ分け、異空間へと誘うデトミルのボーカル。
彼女のウェットな声質を最大限に活かしたアレンジ。
楽器陣のプレイも落ち着いたもので、ヨシコに至っては1曲目から歯ギターを披露!
歌、メロディセンス、演奏力、アレンジ力のバランスの整え方も見事。
筆者だけでなく、誰もがジュノラマ王国のギャップにしてやられたことだろう。
5組の出演アーティストが終わり、結果発表へ。
なお、この結果発表で選ばれた上位3組が第1回、2回の受賞者とともに9月発売予定の宇田川コーリングのコンピレーションアルバムに参加、その後デビューまでの道を歩むこととなる。
第3位はエモーショナルなプレイで会場を沸かせたROOZER。
第2位は狂気と美しさが入り交じった世界観を築いた、キリクと魔女が選ばれた。
そして、第3回の栄えある1位はこれも魔術の一種なのか!? オーディエンスを瞬く間に王国民に変えていった、ジュノラマ王国が選ばれた。
回を増すごとに盛り上がりを見せる「宇田川コーリング」も、いよいよ6月23日に開催される第4回を残すのみ。本イベント最大級の個性派アーティストが出場してくれるに違いない。まだ、明かされていない続報を待ちたい。